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盛岡地方裁判所 昭和62年(ワ)308号 判決 1990年2月01日

原告

扇田良作

右訴訟代理人弁護士

石橋乙秀

被告

株式会社ヒノヤタクシー

右代表者代表取締役

大野泰一

右訴訟代理人弁護士

大沢三郎

主文

一  原告が被告に対して雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  被告は原告に対して、昭和六二年一〇月以降この判決の確定に至るまでの間、毎月二五日限り月額金一七万一〇六三円の割合による金員を支払え。

三  原告の賃金請求のうち、この判決の確定後のものに係る訴えは、却下する。

四  訴訟費用は、被告の負担とする。

五  この判決は、二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文一項同旨

2  被告は原告に対して、昭和六二年一〇月以降、毎月二五日限り月額金一七万一〇六三円の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

4  二項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和四三年九月九日、被告に、タクシー運転手として採用された。

2  被告は、旅客運送を主たる目的とする会社で、その従業員は約二五〇名である。

3  しかるに、被告は、原告が被告に対して雇用契約上の地位にあることを争う。

4  原告の賃金は、完全歩合給で、毎月二一日から翌月二〇日までの稼働営業収入額(以下、営業収入額を「営収額」という。)の四八・五パーセントが同月二五日に支給される定めであるところ、原告が昭和六二年三月から同年八月までの間に支給を受けた賃金の平均額は、一七万一〇六三円である。

よって、原告は被告に対して、雇用契約上の地位にあることの確認及び賃金として昭和六二年一〇月以降毎月二五日限り月額金一七万一〇六三円の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因は、認める。

三  抗弁

1(一)  被告の就業規則二六条三号によれば、技能(乗務員では稼働営収額)が著しく劣り上達の見込みなく又は勤務成績が著しく悪く従業員として不適当と認めたときは解雇するとされている。

(二)(1)  原告の昭和五九年四月から昭和六二年九月までの営収額は、別紙(略)第一別表記載のとおりである。

(2) 被告の全従業員の平均営収額は、右表記載のとおりであるところ、原告の右営収額は、全従業員の平均営収額に比し、長期間にわたり、かつ、全ての月において、著しく低額であった。

(3) 被告における損益分岐点は、別紙第二別表記載のとおりであるところ、原告の右営収額は、これをも大きく下回っている。

(4) 被告は、原告に対し、昭和五九年一一月一二日、同年一二月七日、昭和六〇年一二月五日、昭和六一年三月七日、昭和六二年七月三日の五回にわたり原告の勤務意欲の欠如、勤務成績の劣悪に関し注意を行い(右四回目には今後努力が見られないときは退職を勧告する旨付言した。)、これに対し原告はその都度、「今後は、稼働営収を上げるよう頑張るし、一生懸命流し営業にも力をいれ、昭和五九年一一月、一二月、昭和六〇年一月の営収額が平均より下回った場合は退職願いを出す。」、「いままで何回も会社に迷惑をかけてきたので、今後迷惑をかけるようなことがあったときは自分でけじめをつける。」旨各誓約をした。

2(一)  就業規則二六条七号によれば、会社の業務運営を妨げ又は著しく協力しないときは解雇すると、六八条二〇号によれば、正常に納金しなかったときは懲戒解雇するとされている。

(二)  原告は、昭和六二年七月二七日、被告乗務員藤田良文を誘って運転代行をした。

(三)  被告においては、一般タクシー乗務員は極く一部の例外を除き、勤務時間中、代行運転に従事することにはなっていないから、右行為は会社の経営方針に反するものであるし、原告は、このような行為を勤務中の乗務員である藤田良文をも巻き込んで行ったものである。

(四)  また、右運転代行によるタクシー運賃を、藤田良文と分け、それぞれの営収として会社に納入しようとしたが、これは、正常な納金ではなく、かつ、代行運転者がヒノヤ商事から七〇〇円の支払のみを受けそれ以上の収入を得ないという制度に反する不当なものである。

(五)  なお、原告は、運転代行を行うに際し、配車係員である三浦の承認を得たと主張するが、同人は管理職でもなく、同人に運転代行を承認する権限はない。

3  そこで、被告は原告に対して、昭和六二年八月五日、原告を同年九月四日をもって解雇する旨の意思表示をした(以下「本件解雇」という。)。

四  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1(一)は認める。なお、同条項中、「乗務員では稼働営収額」とあるのは、被告が、昭和六二年二月一日、就業規則を一方的に変更した結果である。

(二)  同(二)のうち、(1)は認める。(2)、(3)は知らない。同(4)のうち、昭和五九年一一月一七日に今後は稼働営収を上げるように頑張ります、一生懸命流し営業にも力を入れますと述べたこと、昭和六二年七月三日に今後は頑張りますと述べたことは認めるが、その余は否認する。

2(一)  抗弁2(一)及び(二)は認める。

(二)  同(三)のうち、原告が藤田良文を運転代行に指名したことは認めるが、その余は否認する。

(三)  同(四)は否認する。原告と藤田良文は、タクシー運賃を分け、それぞれの営収として、被告に納入したものである。

(四)  原告は、運転代行を配車係員である三浦の承諾を得て行ったものである。

3  抗弁3は認める。

五  再抗弁

本件解雇は、ヒノヤ全国自動車交通労働組合連合会岩手地方本部盛岡支部ヒノヤ分会(以下「ヒノヤ分会」という。)の組合活動を嫌悪し、これに打撃を与えることを意図したものであり、解雇権の濫用である。

1  原告は、入社して二ケ月後に当時のヒノヤタクシー労働組合に加入し、同組合がヒノヤ分会となった後もそのまま加入し、現在に至っている。

2  被告には、ヒノヤ分会の他、ヒノヤタクシー従業員組合(以下「第二組合」という。)が存する。

3  第二組合の組合員(以下「第二組合員」という。)は、タクシー運転代行を行っている。また、第二組合員である藤原善視は、昭和六〇年二月頃、タクシー乗務員同志でタクシー運転代行を行い、タクシー運賃の他に代行料金七〇〇円を受領したものの、代行料金を被告に入れず、そのまま自らのものにしたが、全く処分されなかった。

4  被告は、通常の業務に比べて営収が多い観光ハイヤー業務を、ヒノヤ分会の組合員には割り当てず、専ら第二組合員及び非組合員に割り当てている。また、被告は、長距離の注文を、第二組合員に割り当てている。このため、営収の低かったものが、高額の営収を求めて、ヒノヤ分会を脱退し、第二組合に加入している。

5  被告は、賃金においても、差別をしており、第二組合員の賃金は毎月の営収の五一パーセントであるが、ヒノヤ分会の組合員の賃金は毎月の営収の四八・五パーセントである。また、非乗務員の昭和六二年度夏季手当も、第二組合員は一・〇五ケ月分であったが、ヒノヤ分会の組合員は一・〇二ケ月分であった。

6  被告は、古い車両を全てヒノヤ分会の組合員に配車し、新車が導入されれば、第二組合員に配車している。

7  被告は、第二組合員に対しては、上着とワイシャツを貸与しているが、ヒノヤ分会の組合員に上着のみを貸与している。その他、第二組合の社内旅行、新年会などには、被告が費用を出しているが、ヒノヤ分会には出していない。

六  再抗弁に対する認否

不当労働行為の主張は争う。

1  再抗弁1は、知らない。

2  再抗弁2のうち、被告にヒノヤ分会以外の労働組合が存することは認めるが、その名称が「ヒノヤタクシー従業員組合」であることは否認する。その名称は、全国交通運輸労働組合総連合東北支部ヒノヤタクシー労働組合である。

3  再抗弁3は認める。藤原善視は、受け取った七〇〇円については、翌日返還しており、同人の行為には特に責められるべきものは存しなかったから、同人を処分しなかったことは妥当である。

4  再抗弁4のうち、予約に基づいて行う観光タクシーについては、ヒノヤ分会所属のものからは多くの場合その要員が選任されないことは認め、その余は否認する。予約を受けてする観光タクシーについて、多くの場合、ヒノヤ分会所属のものが選任されないのは、観光ハイヤー業務は、主として観光タクシー部に所属する従業員及び観光ハイヤー要員選任基準に則り選任されたものがこれに当たることとなっているところ、観光ハイヤー要員の選任基準の設定及びその基準によって選任する旨の合意が被告と第二組合との間では成立しているが、ヒノヤ分会との間では成立していないことに基づくものである。

5  賃金及び手当、新車の配車において、ヒノヤ分会と第二組合とを差別していることは否認する。

6  ヒノヤ分会の組合員にワイシャツの貸与をしていないことは認めるがそれは、申し入れがないためである。資金援助については否認する。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因及び抗弁3は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件解雇がその要件を満たすかについて検討する。

1(一)  抗弁1(一)については、当事者間に争いがない。

(二)  同(二)(1)及び(4)のうち原告が昭和五九年一一月一七日に今後は稼働営収を上げるように頑張ります、一生懸命流し営業にも力を入れますと、昭和六二年七月三日に今後は頑張りますと述べたことは当事者間に争いがなく、この事実に(証拠略)を総合すれば、次の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 昭和五九ないし昭和六二年度(年度は毎年四月から翌年三月までをいう。なお、昭和六二年度は九月四日まで)における原告の営収額と右期間における全乗務員の平均営収額は、別紙第一別表記載のとおりであり、原告の営収額は、昭和五九年度において四三四万三八八〇円、昭和六〇年度において四五二万一六一〇円、昭和六一年度において三七五万四一九〇円(ただし、ストライキ期間である八月から一〇月にかかる月を除外した月平均額を一二倍することにより得られる年額は四三二万一一五〇円((一〇円未満四捨五入)))であったから、右全期間にわたり、全乗務員の平均営収額より低く、その差は、昭和五九年度で二〇・二パーセント、昭和六〇年度で一七・六パーセント、昭和六一年度で二七・〇パーセント(ただし、ストライキ期間にかかる月を除くと二一・四パーセント)であること

(2) 昭和五九ないし昭和六一年度における被告の損益分岐点は、別紙第二別表記載のとおりであり、運転者一人当りのその年額は、昭和五九年度が四五一万四九一六円、昭和六〇年度が四六〇万〇八三六円、昭和六一年度が四六六万六二四八円であること

(3) 原告は、違法駐車をしてまで客の多い盛岡駅前などに待機することをしないという考えを持っており、このことも原告の低営収の一因となっていること

(4) 被告は、原告に対して、昭和五九年一一月一二日、同年一二月七日、昭和六〇年一二月五日、昭和六一年三月七日、昭和六二年七月三日の五回にわたり、口頭で、営収が不良であることを指摘して注意し、原告から今後は頑張る旨の誓約を得ていたこと

そして、右事実によれば、原告の営収額は(1)に認定のとおりであるから、昭和五九年度で一七万一〇三六円、昭和六〇年度で七万九二二六円、昭和六一年度で九一万二〇五八円(ただし、ストライキ期間中を除外した月平均額を一二倍することにより得られる年額との差は三四万五〇九八円)損益分岐点を下回っていることとなる。

(三)  しかしながら、被告の従業員が約二五〇名であり、乗務員の賃金が完全歩合制とされていることは当事者間に争いがなく、右認定事実に、(証拠略)を総合すれば次の事実を認めることができ、(人証略)中右認定に反する部分は採用できない。

(1) 被告には、当時平均営収額が四〇万円未満の者も一割弱程度存し、三十七、八万円程度の者は原告の他四、五名いること

(2) 本件解雇は、被告の専務取締役等によって構成された賞罰委員会なる被告の内部組織が昭和六二年七月三一日被処分者である原告から事情聴取をして、処分意見をまとめてこれを代表取締役社長に上申し、この上申に基づいて社長が処分を決定し、同年八月五日専務取締役がその決定を原告に告知することによってなされたが、その事情聴取の過程においては、営収のことについては全く触れられず、専ら原告がタクシー運転代行をし、その運賃を原告と藤田良文が分けて納金したことのみが問題とされ、また右処分の告知に当っても、被告から解雇理由として前記運転代行の件及びその納金方法が就業規則に反することのみが挙示されていたこと(<証拠略>には、「今月の三日に低営収のことで君(原告)を呼んだ」旨の記載があるが、その文脈からして、その記載が、同年七月三一日被処分者である原告から事情聴取をした際に営収のことが問題とされたことを記述したものであるとは解しえない。)

(3) 被告においては、乗務員の賃金が完全歩合制とされていること(変動費は営収と相関関係にあり、その営収に対する割合は昭和五九年度において六二パーセント(小数点一位以下四捨五入、以下同じ)、昭和六〇年度において六一パーセント、昭和六一年度において五九パーセントとなることは第二別表の数字から計算上明らかであるところ、原告の営収額は、昭和五九年度において四三四万三八八〇円、昭和六〇年度において四五二万一六一〇円、昭和六一年度において三七五万四一九〇円(ただし、ストライキ中の分を除外して算出した月平均額を一二倍して得られる年額は四三二万一一五〇円)であることは(二)(2)で認定のとおりであるから、これに対応する変動費は、それぞれ二六九万三二〇六円(円未満四捨五入、以下同じ)、二七五万八一八二円、二二一万四九七二円、二五四万九四七九円となる。)、固定費については、乗務員一名程度が減少しても車両台数を減少できないことなどからして、原告を解雇することによって削減しうるのは、福利厚生費程度であり、その額は、一人当り平均で三〇万円にも満たないこと(三年間のうち最も高い昭和六一年度においても、(6868万7388円+102万6240円)÷250人=27万8855円であった。)

そして、右事実によれば、右営収額から右変動費及び固定費を差し引いて得られた残額は、それぞれ一三五万〇六七四円、一四六万三四二八円、一二三万九二一八円、一四七万一六七一円であって、原告は各年度において右金額に相当する利益を被告に与えているということができる。

(四)  以上の事実を勘案すると、たしかに、原告の営収は、全乗務員の平均営収額に比し、長期間にわたって継続的に、相当低く、かつ、被告からの再三の注意にもかかわらず目立った変化がないという勤務状況にあるということはできるものの、その程度は、他にも原告と大差のない従業員があって、本件解雇に際し、被告としても、これを特に取り上げて指摘をすることをしなかった程のものであるし、原告も被告の利益にそれなりに貢献していると見る余地がなくはないものであることを考えると、前認定のような事実をもっていまだ就業規則に定める「著しい」成績の不良があるということはできない。

2(一)  抗弁2(一)及び(二)については、当事者間に争いがない。

(二)  同(三)のうち、原告が藤田良文を運転代行に指名したこと、原告と藤田良文は、受領したタクシー運賃を二人で分け、それぞれの営収とし、少なくとも被告に納入しようとしたことは、当事者間に争いがない。

しかしながら、この事実に(証拠略)を総合すれば、次の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠は存しない。

(1) 被告では、昭和五九年冬以前にタクシー乗務員が行う運転代行(以下、タクシー乗務員が行う運転代行を「タクシー運転代行」、非タクシー乗務員が行う運転代行を「運転代行」という。)を始めたが、昭和六二年七月中旬に至って、被告日詰営業所を除き、運転代行は被告の関連会社であるヒノヤ商事の従業員が行うこととなり、タクシー運転代行は、被告の特別の指示があったときに限られることとなったこと(なお、ヒノヤ商事従業員による運転代行は、既に昭和五九年一一月頃から始まっていたが、その後も昭和六二年七月中旬に至るまでタクシー運転代行も併行して行われていた。)

(2) 右昭和六二年七月中旬の変更に関する周知は、第二組合員に対してはなされたが、ヒノヤ分会所属の従業員に対してはなされなかったこと

(3) 日詰営業所以外において、昭和六二年七月中旬以降行われている運転代行の態様は、顧客から注文を受けると、被告のタクシー乗務員とヒノヤ商事の従業員が組になり、タクシーで顧客のところに行き、顧客をタクシーに乗せ、ヒノヤ商事の従業員がこのタクシーに追従して顧客の自動車を、目的地まで搬送するというものであること

(4) 日詰営業所では、現在もタクシー運賃メーターによるタクシー運賃の他運転代行料金として七〇〇円を受領しているが、それ以外の営業所では、昭和六二年七月中旬以降においては、運転代行料金を一切受領せず、タクシー乗務員がタクシー運賃メーターによるタクシー運賃のみを受領し、しかもその全額がタクシー乗務員の売上とされ、運転代行に従事したものに対しては別途ヒノヤ商事から賃金が支払われること

(5) 原告は、昭和六二年七月二七日午後九時頃、被告北大橋営業所において待機中、友人の内沢某からの依頼に基づき、二戸市内までタクシー運転代行を行うこととし、被告従業員藤田良文に連絡し、原告の運転するタクシーに内沢を乗車させ、藤田良文に内沢の自動車を運転させて二戸市まで行き、その料金としてタクシー運賃額一万五九五〇円を受領したものであるが、前記運賃を原告と藤田良文とで二分し、乗務記録には、原告は料金欄に「15950(7950)代行」と、藤田良文は記事欄に「21:45~1:25青山~二戸運転代行¥8000」と、それぞれ記載し、営業収入としてこれを被告に報告したこと

(6) 原告は、右運転代行を行うに先立ち、本社配車係員の三浦某に確認し、被告においてタクシー運転代行を行っており、その際はタクシー運賃だけを貰っているとの回答を得た上でこれを行ったものであること

(三)  そして、以上の事実を勘案した場合、原告が運転代行を行い、そのタクシー運賃を藤田良文と折半したことは、外形的には被告の業務方針に反するものという余地が全くないわけではないが、昭和六二年七月中旬以降においては、運転代行料金を一切受領せず、タクシー運賃のみを受領することとされていることからして、原告が右運転代行を行ったことにより被告又はその関連会社であるヒノヤ商事が本来得るべき収入を害したという余地はないし、原告は内沢を乗車させてタクシーとしての運行を行ったのであるから、本来運賃一万五九五〇円全額を自らの売上となしうるもので、七九五〇円を自らの、残額八〇〇〇円を藤田良文の売上とすることによって原告には不当な利益は生じていないこと、原告及び藤田良文が前記のとおり乗務記録に記載し結局運賃全額について被告に報告されていること(被告は、タクシー運賃メーター表示どおりの記載ではないとして、前記記載を問題とするが、原告がした「15950(7950)代行」の記載のうち、「15950」の記載はまさにタクシー運賃メーター表示とおりの記載であるし、また「(7950)代行」との記載はやや説明として足りないという余地がないではないものであるが、このような記載がある以上、被告は容易にその趣旨を原告に確認しうるものであって、この記載・報告は問題のないものということができる。)、更に、その方針の変更の周知は不徹底なものであったところ原告は本社配車係員に確認の上行ったものであることからして、右運転代行の事実をもって、会社の業務運営を妨げ又は著しく協力しなかったものということはできないところであるし、「正常な納金」をしなかったということもできない。

3  したがって、被告が本件解雇の事由として主張するところはいずれも理由がなく、その余の点について検討するまでもなく当事者間には雇用契約関係が存続しているものというべきところ、被告はこれを否認して争っている。

三  請求原因4は当事者間に争いがない。

四  以上によれば、本訴請求のうち、原告が被告に対して雇用契約上の権利を有することの確認及び昭和六二年一〇月以降この判決の確定に至るまでの間、毎月二五日限り月額金一七万一〇六三円の割合による賃金の支払いを求める部分は理由があるが、その余の部分、すなわち賃金請求のうち、この判決の確定後の部分に係る訴えは民訴法二二六条の所定の必要性を欠く不適法なものであるから却下し、訴訟費用の負担について同法八九条、九二条ただし書、仮執行宣言について同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中田忠男 裁判官 加藤就一 裁判官 松井英隆)

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